「物と情報の流れ図」は、密の状態から、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ造り、運搬する「ジャストインタイム」実現の重要な手段です。
5月下旬には収束間近かと思われた新型コロナウィルスだが、6月中旬からまた感染者数が増え始めた。そして今(8月上旬)は1日の全国の感染者数が4月のピーク時の倍になり、しかも数日毎に記録を更新している。このようなぶり返しはある程度予想されていたが、改めてこのウィルスのしぶとさや無気味さを感じてしまう。
医療の知識に疎いわれわれでもウィルス撃退には長期間を要するこが予想できるので、感染拡大防止と経済活動の両立のために、何としても新しい生活様式を作り上げねばならない。そのためのキーポイントはやはり「三密」を避けることであろう。日常生活の中はもとより、仕事場、医療現場、教育・学門の場、レジャーの場、等々人が交流するあらゆる場において「三密」を避ける具体的な対策が必要だ。人間は元々集団生活をするのが基本で、三密によって生活の質が上がり、精神的な充実感を味わうようにできている。その大事な「三密」を止めよというのだからかなり酷な話しである。しかし、現時点では感染拡大を防ぐ手段がこれしかないのだから実行あるのみだ。
なぜTPSにおいて「三密」は禁じ手なのか?
ところで、TPSには「三密」と言う言葉はないが、「密の状態」という言い方で「密」という言葉を使うことがある。コロナ騒動前の一般社会では「密の状態」というのは必ずしも悪いイメージばかりではなかったが、TPSでは良くないイメージが強い。部品や完成品が「密の状態」になっていたら、そこには持たなくても良い余分な在庫があり、改善すべき問題点(ムダ)があるのではないかと疑ってみる必要があるというのだ。
例えば、薄暗い倉庫の中に部品や完成品が山と積まれていて、古いものには埃が溜まっているような状態。あるいは、製造工程の途中に部品がいつも数個まとめて置かれていて、停滞したような状態。このような状態があればなぜそこに在庫を持たなければならないのかを調べてみる必要がある。すると何かしらの問題点や解決すべき項目(ムダ)が浮かび上がってくるものだ。
TPSでは物(部品、半完成品、完成品)が常に流れている状態を理想としている。よく使われる「1個流し生産」はその最たるものだ。川を思い浮かべてみると理解しやすい。川の水が常に流れていたら水が汚れることは少ない。しかし、淀んだところがあればそこの水は汚れやすい。物が停滞している所には「ムダ」が生じやすいという訳だ。
「物と情報の流れ図」を使って、密の状態から脱却
TPSではこの「物の流れ」と、物を造ったり運んだりすることを指示する「情報の流れ」を極めて大切なものと位置づけしている。そのために、この2つを表す「物と情報の流れ図」を作り、物が清流のごとく流れているかどうかを確認する仕組みになっている。必要な物を、必要な時に、必要な量だけ造ったり運んだりする所謂「ジャストインタイム」の実現の重要な手段なのだ。 ただ、誤解があるといけないので補足するが、周囲の状況によっては一時的なムダを承知の上で在庫を持つことも必要だ。例えば、度々発生する交通渋滞や特別なイベントによる需要の急増への対応は必要最少限度の在庫で凌がなければならない。
新型コロナウィルスへの対応も、スーパーマーケットへの買い物はできるだけ回数を減らした方が安全なので、必要な日数分だけをまとめ買いすることも「三密」防止の具体策だろう。 いずれにしても、「新しい生活様式」によって「三密」でもよい社会を一日も早く取り戻したいものだ。
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このコラムを書いたTPS改善コンサルタント
林田 博光(はやしだ ひろみつ)
トヨタ自動車OB 田原工場副工場長
トヨタ生産方式を実践指導。溶接・組立技術が専門。
調達・生産管理などを包括した工場全体の改善活動を進める。各種工場の指導経験が豊富。