コロナの年とも言える2020年の状況にドイツの諸企業がどのように対処したか、そしてそれが彼らの改善活動にとって何を意味するのかを見定めるために、小規模な調査を行い、長年にわたりリーンコンセプトと改善方式を応用している企業に回答をお願いしました。
コロナ禍 改善活動が減少した企業はゼロ

高いレベルの変遷能力を備えた組織は、自然の理として、変化により容易に対処していて、パンデミックによる刺激を利用しています。
そうした組織は先駆者として、他でも遅れながらも現れてくることが予想される展開を先取りしています。

調査ではドイツの9つの企業または企業部門に回答をお願いしました。

これらの企業は主に製造業の企業で、長年にわたりリーンコンセプト(TPS)と改善方式を応用していることで際立っています。

9社は標本数として少ないものの、回答者の幅は広く、調査結果は、統計的にはさほど有意ではなくとも、改善能力を擁する組織を代表するものであると考えられます。

目次

  1. 質問1 コロナは2020年の改善活動に影響を与えたか?
  2. 質問2 コロナはデジタル化を後押ししましたか?
  3. 質問3 これに関してどのような例がありますか?
  4. 質問4 これは生産性をどちらかと言えば向上または低下させましたか
  5. 質問5 これらの変化は持続するでしょうか?
  6. まとめ
質問1:コロナは2020年の企業内のプロセス改善活動に影響を与えたか?それはどちらかと言えばポジティブ、あるいはネガティブなものでしたか?

その両方。初期の局面では、時短操業ならびに会合(ワークショップ)の制限により、プロセス改善活動に遅延が見られました。

製造工程では、感染防止対策がプロセスの非効率化、または一般的にワークショップやプロジェクトにおける遅延につながることもありました。
複数の従業員による従来型の現場ワークショップは、時にはまったく不可能でした。
しかしながらそれと同時に、健康保護にまつわる、そしてそれに続きコロナ関連の保護対策の最適化にまつわる多くの新しいアイデアが短期間のうちに実践されました。調査の回答者の1人は「非常事態で、特殊な状況だったことから、私たちは多くの改善を行いました。
なぜなら、あの枠組み条件のもとではそれが絶対に必要であったし、そうしなければお客様に納品することが不可能だったからです」とさえ述べています。

改善目標は順守されました。リモート勤務とそれに伴う時間の節約により、いくつかの点では、改善活動の日取りがもっと簡単になることさえありました。
改善ワークショップもデジタルで行われ、一部では以前よりも焦点が絞られることもありました。

改善活動が減少したと述べた調査対象企業はまったくありません。

総括としてはニュートラルからポジティブなものとなっています。基本的に、創意工夫、柔軟性、スピードが求められました(そして今も必要)が、これらはすべて、コロナ禍のもとで鍛錬された改善のコアコンピテンシーです。そういったわけで、コロナは全体として、プロセス改善活動にかなりプラスの効果をもたらしました。

デジタル化の進展に目を向けると、こうしたことはもっとよく当てはまります。
これが次の質問のテーマです。

質問2:コロナはデジタル化を後押ししましたか?

質問3:これに関してどのような例がありますか?

ここでの回答は、「はい」から「間違いなく」そして「途方もなく」まで、はっきりしています。

これは、デジタル化ソリューションとホームオフィスがすでに導入されている場合に特に当てはまります。デジタル通信に関しては、Microsoft Teams(または他のツール)を介したビデオ会議が、あちらこちらで従来の電話での通信に取って代わったと言えます。そしてそれをはるかに超えるものも見られます。(調査対象企業では2020年に、数百人または数千人が参加する経営会議およびエグゼクティブ会議がオンラインで開催されました。コロナ以前はほとんど想像もつかなかったでしょう。)
一方、電話会議やビデオ会議は多くのところで優先的な作業方法となっていますが、そこでは対面でのコンタクトが不足しています。

管理関連プロセスのデジタル化はさらに進んでいます。
例としては、

  • 人員応募プロセス
  • リモート条件下での新入社員オリエンテーションの実施
  • などがあります。(つまり、彼らが会社で自らのチームを見ることなしに行われる)

    他には、コラボレーションツールの取り扱い(製造部門従業員によっても、一部では個人用のデバイスを用いて)、および簡便なデジタル認可の活用が挙げられました。

    製造分野では、デジタル現場管理が役立つことが証明されました。
    デジタルショップフロアボードにより、現場でより少ない人数でショップフロアミーティングを開き、それでも他のすべての参加者が情報を余すところなくリアルタイムで入手できるようになりました。
    デジタル現場管理はその有効性が証明されていて、今後もさらに普及するでしょう。保全のためのバーチャルリアリティ・ソリューション、つまり技術者を現場によこすことなくスマートグラスを介して行うメンテナンスも、コロナ禍の状況では非常に役立ちました。

    もう1つのデジタル化領域は研修です。従業員研修のためのオンラインセミナーならびに作業者を対象とした設備のもとでの研修が行われるようになった同年からは、デジタルフォーマットの種類が増えることとなりました。そのようなプログラム(製品取り扱い指導など)が顧客を対象に拡大されたケースもあります。

    回答者の1人は「以前より受容度が高まり、デジタル化とそれに伴うプロセス調整に対する見方と感応性に変化が現れたと思います(下略)。そして突然、他にもやり方があると気づきました」と述べています。今となってはホームオフィスは「永遠の批評家」にも受け入れられています。

    質問4:これは生産性をどちらかと言えば向上または低下させましたか(そう感じる/推測される)?

    この質問にもまた、一括して答えることはできませんが、回答の半数では、生産性の向上に関する明確な発言がなされています。ある企業は、コロナの年に工場の生産性が過去最高を記録したとさえ述べています。 別の企業では、ホームオフィスによってまずは生産性が急激に低下しました。パンデミックが始まった当初、紙を用いた処理には極端に時間がかかりました。しかしこれはデジタル化によって挽回でき、最終的には生産性が向上しました。こうしたことは、コロナなしでは起こらなかった(あるいはまだ起こらなかった)であろうプロセスデジタル化の例でもあります。 活動の種類によっては、同僚に煩わされることがなくなることにより、ホームオフィスの方が条件が良くなる可能性さえあります。生産性の顕著な向上の例は、プログラミング業務などで見られました。さらに別の企業では、2020年10月の計測時に、過去10年間で最高の顧客満足度向上という、予期せぬ結果を記録しました。

    調査対象企業のうち、生産性が低下したと述べている企業は1つもなく、ここでも良好な総括となっています。ただし、そのような効果を得るために満たさなくてはいけない前提条件があります。ホームオフィスでは、生産性を確保するために、すべての従業員に明確なタスクと期待される結果を提供することが根本的に重要です。

    さらに、効率的なリモート勤務は、それ自体からは生成しえない前提条件を糧としています。つまり、従業員の間で良好なコンタクト/関係が確立されている、ということです。生産性のための社会的基盤を維持すること、そしてそれを新しい従業員とともに再三再四にわたり築いていくことが課題となります。

    質問5:これらの変化は持続するでしょうか(ホームオフィスの増加など)、あるいは、さらなる変化につながるでしょうか(オフィススペースの減少など)?

    質問6:さらなる変化としては、どのようなものが予測できますか?

    今後も引き続きホームオフィスが大いに利用されることが予想されます。ある企業での初回調査では、従業員の大多数は完全に自宅で仕事をしたくはないこと、ほとんどの従業員は週に2〜3日はオフィスにいることを望んでいることが分かりました。こうした時間は、これまでのオフィス勤務時間においてとは利用の仕方が異なります。つまり、主に会議、ワークショップ、およびチームに費やされ、デスクでの個別の作業には用いられません。

    職場は変わります – 誰もが固定された作業場所をオフィスで持つことはもうなくなり、コワーキングスペースが設置されるようになるでしょう。これに伴い、オフィススペースの需要が低くなり、オフィスビルのメンテナンスコストが削減され、駐車スペースが減っていきます。

    残存したスペースは将来、これまでとは違った風に形成することが求められます。さらに、存続したオフィススペースが均等に利用されるように、つまり主に火曜日から木曜日に使われ、月曜日と金曜日には閑散としてしまうようなことがないように(コントロールしなければそうなることが予想される)プロセスを開発する必要があります。

    ビデオ会議の実践がすでに確立された今、社内ミーティングのための出張が減り、それに伴う費用が節減されます。ハイブリッド会議が普通になるでしょうが、そのためには、会議スペースをそれに応じて装備する必要があります。製造部でもライブビデオ会議を行うための移動式設備や生産データへの遠隔アクセス環境などを同じくもうけることが求められます。そうすることにより、世界中の開発者と経営陣がより迅速に製造施設の様子を見て、問題について焦点を絞って話し合うことが可能になります。ただしそこではデータセキュリティとデータ保護を再考して再定義することが不可欠です。そして従業員各自の責任を拡張することが必要になるでしょう。

    直接のコンタクトが少ないと、チームの組織化も異なってきます。調査の回答者の1人は、「チームウィーク」を計画しています。そこでは、「私たちは一緒に仕事をしますが、オフィス以外の場所で働きます。モチベーションを維持するためには、ホームオフィス(ソーシャルコンタクトなし)、オフィス勤務時間(ソーシャルコンタクトあり)、チームタイム(経験の共有)の良好な共生が必要だと思います」。

    まとめ

    コロナは根本的な変化を引き起こした、または加速したことが確認できました。高いレベルの変遷能力ならびに正しく機能している改善手順を備えた企業は、自然の理として、変化により容易に対処していて、パンデミックによる刺激を利用して必要な調整を行っています。そうした企業はこれを通して力を強め、将来に向けての良好なポジションを取りつつ危機から抜け出すでしょう。同時に、先駆者として、他の企業や組織でも遅れながらも現れてくるであろう展開を先取りしています。

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    このコラムを書いたTPS改善コンサルタント
    Dr.ロマン・ディツアー     (Dr. Roman Ditzer)

    コンサルタント ドイツ・ハンブルク在住

    2000年以降、リーン・マネジメント、改善、リーダーシップ、”学習する組織”の分野でコンサルタントとして活躍中。ダイムラー社、エアバス社、ヴォルクスワーゲン社などにサービスを提供。

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