TPSで読み解くマスク製造事業のポイント

√「質よりも量」をとった末路は?
√ TPS(トヨタ生産方式)は、良いものしか造れない仕組み
√ 品質と納期は全く次元の違うもの

ようやく元の生活に戻る歩みが始まったとは言え、新型コロナウィルスのために世の中がすっかり変わってしまった。いつになったら元の生活に戻れるのか、殆どの人が今も大きな不安を感じている。

仕事のスタイルが一変した人、仕事が半減してしまった人、それどころか仕事そのものが無くなってしまった人、等々人によって被害の受け方は違うけれど、多くの人の生活の場が屋内中心になってしまった。私も勿論その1人である。

当然ストレスの多い日が続いたわけだが、強いて良い点を上げれば、一つのことをじっくりと観察したり考えたりすることができた点だろう。

こんな状況下なので、政府や地方自治体が出した対策をわれわれ一般国民は不満を言いながらも忠実に実行することを求められるが、対策を立案して指示を出す側にも大変な苦労があったのは当然だろう。方針やその実行に問題が無くて当たり前、問題があれば四方八方から袋叩きに会うわけだから……。

いろいろな対策の中であまり評判が良くなかったのがマスクの配布だ。

4月1日に配布が発表されて、我が家には6月初めに届いた。政府の緊急事態宣言が解除されたのが5月25日だから、タイミングという点ではどう考えても良かったとは言い難い。既にスーパーマーケットやドラッグストアでは容易に手に入れることができるようになっているので……。材質も不織布製が主流の中で綿製というのもどうかなとか、形も大きさも今一だとか、苦情をよく耳にする。しかし、もらった側が苦情を並べ立てるだけというのも生産的でないし前向きな話しではない。

そこで、私はもらったマスクは第2波、第3波への備えにすることにした。

そして、このように大急ぎでものを造って国民全員に配布することの大変さが判り、関係者のご苦労の大きさを知ることにもなった。

納期を優先したことが、納期を予定よりも大幅に遅れさせる

ただ、今回の一連のマスク騒動で、「もの造り」と言う観点から、聞き捨てならない事実があった。

それは新聞で報道されていたことなのだが、素材を調達し、マスクの縫い付けをし、完成品を全家庭に届けるという一連の仕事を短期間に実行する難しさの中で、もの造りの禁じ手を使ってしまったことだ。

国民皆が待っているのでとにかく早く造ってほしい。そのためには今回は「質よりも量」を優先してほしい、という指示が計画担当者からマスクメーカーに出され、契約書にも不良があっても咎めないようなことが書かれていたということだ。

メーカーとしては品質を最優先にしたかったようだが、結局十分な検査体制も取れないままに生産に突き進んだようだ。その結果は、皆さんもご存じの通り、生産の早い段階で不良が見つかり、完成品を全部引き上げて再検査して出荷し直さなければならなかった。

そのために納期が予定よりも大幅に遅れてしまった、ということだ。

TPS(トヨタ生産方式)は、良いものしか造れない仕組み

数年前から、日本のもの造りの根幹に関わる重大な品質不良や品質を無視した行為が複数の大手メーカーで発覚したことが判り、国民に大きな衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。

日本が永年得意としてきたもの造りの現場において、品質のことを心配しながらも、ついつい納期に追われてとか、原価の上昇が恐くてとか、人手不足でとか、いろいろな理由で品質確保のルールを無視したことが報告されていた。

実際、昔から現場では品質と納期の板挟みになって悩んでいる作業者・監督者・管理者が多いことを私はよく知っている。

しかし、こういう悩みを持つ現場ではもの造りの考え方に大きな誤解があるということを関係者は知っておかなければならない。つまり、こういうことで作業者・監督者・管理者が悩むこと自体が間違っているのだ。

TPS(トヨタ生産方式)では、もの造りの過程で品質不良が出たらラインは自動的に止まるか、人が強制的に止める、という仕組みを造り、それを徹底させている。つまり良いものしか造れない仕組みだ。

この仕組みの中で作業者・監督者・管理者が悩むことと言えば、いかにして早く不良の処置をし、その再発を防ぐ対策をするかということだ。不良が発生したら直ちに発見できるような検査体制を作っておくことも必要だ。結局その方が、結果として納期が早くなるのだ。

品質はもの造りの前提
品質を保証できないなら、ものを造る資格はない

そもそも品質と納期というのは全く次元の違うものであって、どちらを優先するかという話題にするべきものではないということだ。品質はもの造りの前提になるもので、品質を保証できないなら、ものを造る資格がないということだ。ここまで言うと、ちょっと言い過ぎではないかと反論する人がいるかも知れないが、これがもの造りの本質であると言える。

品質と原価の関係もしかり。また、品質の他に前提条件にしなければならないものに「職場の作業安全」がある。業種によっては他にも項目があるかも知れない。

新型コロナウィルス対策のお陰で改めてTPSの大切さを痛感した次第だ。

この原稿を書いている時に、家内が新しい素材のマスクを買ってきた。これは息苦しさと暑さが緩和され、何回洗っても生地が悪くならないとのことだ。

今回のマスク配布のお陰で新素材製のものが市場に出回るきっかけになったとしたら、マスク配布も新しい生活様式の工夫の一助になったと言えるのかも知れない。

このコラムを書いたTPS改善コンサルタント
林田 博光(はやしだ ひろみつ)

トヨタ自動車OB 田原工場副工場長

トヨタ生産方式を実践指導。溶接・組立技術が専門。
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